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第106回
TOKI氏の人生を約3年に渡り執筆させて頂いた「時と呼ばれた男」の最終回に際し、最後に、私から見たTOKIという男を語らせてもらいたい。
音楽畑には、ほぼ縁の無かった私が「ミュージシャンの半世紀を書く」という話を頂いた時に、正直あまり気が進まなかった。
しかし、紹介者曰く「普通の男じゃないよ。絶対に興味が沸くと思う」と強く言われ、TOKI氏と会って話す機会を設けてもらった。
カフェで初めて見た時の強持てのイメージとは打って変わって、話してみると物腰が低く、謙虚で、礼儀を重んじていた彼に些か驚いた事を覚えている。
「どういう風に書く事を望みますか?」と聞くと「ありのままで結構です。でなければ意味が無いですから」という答え。
妙に美化して書く事を強要されるのなら謹んで辞退させてもらおうと思ったが、それならば!という事で、掻い摘んでTOKI氏の今までの人生を吐露してもらった。
…話を聞き終えた時、俄かに信じがたかった。
ビシッとしたスーツを纏ったクールで屈強そうな男に、それだけの過去がある事を。
そんな私の胸中を見抜いたTOKI氏は「身体、見せましょうか?」とシャツのボタンを外し、肌を露出させる。
慌てて静止するも間に合わず、TOKI氏の言葉に嘘が無い事を知った。
…言葉が出なかった。
「是非、私に書かせて下さい」という言葉を除いては。
その日からICレコーダーとノートを持ち、TOKI氏のスケジュールの合間を縫っては会いに行き、彼の人生を年代ごとに語ってもらった。
幼少時の事から、10代の失恋、就職、自動車事故での立ち振舞い、20才の時の事故、音楽との出会い、支えてもらった恋人との別れ、バンドを失った挫折、親を支える為の起業、親友を支える姿、福祉施設で暮らす子供達に対する思い、etc,etc
聞けば聞くほど驚くのと同時に「自分ならどうするだろう」という葛藤が沸き起こる。
物語の最後を締め括る2007年の復活の経緯を聞き終えた時、「自分には輝かしい経歴はありませんから」と気まずそうに笑うTOKI氏に、私は「TOKIさんの人生はそういう面を超えた生き様だと思いますよ」と答えた。
STEALTHの「アルストロメリア」のブックレットにてTAKURO氏が、C4が活動休止に際し新たな動きを提案するTOKI氏を語る言葉で「それは、やっぱり誰かの為に自分が汗を流す事だった」とある。
同時に「それは、まさに俺の知っている、俺の好きなTOKIさんなんだけれど」と書き記された言葉。
傷を負った身体で、こんな時代に、いつだって「誰かの為に」と生きている、この一人の男の半生を描けた事を私は誇りに思う。
みなさん、3年もの長きに渡りご愛読ありがとうございました。
私も皆さんと同様、これからもこのTOKIと呼ばれる男の生き様を、この目で追い続けていきたいと思う。
editor 三島栄治
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