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第18回
海の底に一度沈んで、地面を蹴り上げジャンプ。
海面に出た事を機に全力で泳ぐ。
身体が沈み始めたら、また同じ事を繰り返した。
しかしジャンプして海面に出る度に丘が遠くなっていく。
そんな危険な状況下。
人がいる!
思わず助けを求めようとした。
数メートル先の一人に「助けて!」「おーい!」と声をかけるだけ。
それだけで多分自分は助かる。
しかし、声を掛ける事が出来なかった。
何故?現在のTOKIに当時の心境を聞いてみた。
「多分、自分の命に対して誰かに借りを作りたくなかったんでしょうね。もしくは弱い部分を見せたくなかったのかも」
次第に失われていく体力と比例して視界から遠ざかっていく陸地。
もう海の底まで沈む事も出来ないくらい体力を失っていた。
もう人の姿も見えない。
「もうダメかな…」
気力さえも失いかけた、その瞬間。
0コンマ数秒浮かび上がる時、海水混じりに広がる視界に、波間を漂流するビーチボールを発見。
ボールまでの距離、およそ5m。
「あれを掴めたら…」
TOKIは最後の気力でボールに向かって泳いだ。
3m、2m。もう少し。
ボールに手を掛けた。
しかし滑って手を逃れるボール。
「掴めなかったら、死だ」
その確実な現実をTOKIは受け入れた。
まさしく必死でボールを追いかける。
掴んだ!胸に抱いた!
今までの事が嘘のように身体に浮力が与えられる。
それを境に潮流が変わったのか、わずかに足をバタつかせるだけで前に進む。
波間に漂いながらTOKIは自分に驚いていた。
「何で俺は助けを求められなかったんだろう」
自分のプライドの高さか何なのかは知らないが、TOKI自身ですら知り得なかった自分の誇りめいたものにTOKI自身が一番驚いていた。
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