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第20回

予約していたのは12畳ほどの一部屋。

夕食を終えて、しばらくした時、(おい、ちょっと外に出ようぜ?)と菊池が言う。

誘われるままにTOKIも外に出る。

日中、燦々と照り付けた太陽もほとんど沈み、夜の闇の気配を感じ始める頃の海岸線。

「静香ちゃんの事か?」

とTOKI。

「わかってるじゃねぇか」
「あの子が俺に好意を持ってるのは、さっきの事でわかったけど、俺がわからないのは、何で俺なんかを好きになるのかって事だ。大して話した事もないんだぜ?」
「バ〜カ、人が人を好きになるのに理由なんかあるかよ」
「いや、でもな…」
「まぁ、聞け」

菊池がTOKIの言葉を遮る。

「あの子はな、例の井浦の件で傷ついてる。そういう子にお前は何もしようとは思わないのか?」
「いや、俺に出来る事があったら何でもしたいとは思うけど、それが恋愛に関係ある事なのか?」
「お前はな、自分の事をよく分かってない。まぁ、そこが良いところでもあるんだけどな」
「どういう意味だ?」
「お前はイイ男って事さ。俺の人生でも出会った事がないくらいにな」
「何だよ、突然」
「静香はイイ女だぞ?睦美を通じて、あの子の事は良く知ってるつもりだ。イイ男とイイ女がいれば外野はくっつけたがるってのが人情ってもんだろ?」
「…」
「付き合ってみて嫌だったら別れりゃいい、ただそれだけの事だろ?」
「いや、俺はそんな適当に女の子なんかと付き合えないぜ」
「相変わらず堅いな〜お前は、ノリってのはないのか!ノリってのは!」
「ノリで人と付き合えるかよ!男には責任ってもんがあんだろ!」
「まぁ、そこがイイところだからなぁ。ま、とにかく静香はお前に惚れてる。それは睦美から聞いたんだ。お前も、そんな女の子の気持ちに対して男らしく接してみろよ」
「何だよ、それ」
「今晩は大部屋だから、そんな空気になりにくい。明日は海の家に宿泊する事は知ってるよな?」
「ああ」
「ムードとしちゃ最高だぜ?」
「ムードなんか関係ねぇよ、そもそもな…」
「わかった、わかった。とにかく明日、静香からお前に何らかのモーションを掛けてくる筈だ」
「ちょ、何だよそれ!」
「お前は奥手だからな、そういう風にセッティングさせてもらった。まぁ、あとはお前に任せるよ」
「セッティングって何だよ!おい!」
「ハハハ、とにかく帰ろうぜ」
「おい!」

追いすがるTOKIを遮り菊池は旅館に戻る道に小走りで逃げた。

(明日…)

TOKIは混乱して、その場に立ち尽くしていた。

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