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第25回
「俺は悪い事をしたとは思っていない。アンタはどうなんだ?」
井浦の目を見据えながら話すTOKI。
井浦も口を開く。
「俺は確かに悪い事をしたと思う。でも謝ろうとしただろ?」
「お前はあんな態度で謝ってるつもりなのか?」
TOKIの問いに井浦は閉口し、そのまま沈黙する。
静寂を打ち破るようにTOKIの父が口を開く。
「確かにヒドい状態だな。でも男同士の喧嘩なんだ。怪我して当たり前だ。予後の検査で大事があったら連絡してきなさい。とりあえず今日は、そういう事で終わりにしないか?」
「でも!」
井浦の兄が納得いかないといった風に声を上げる。
「いいか?何度も言うが男同士の喧嘩だ。外野がガチャガチャ言うもんじゃない。言いたい事があるなら本人に言わせろ。なぁ、君?何かコイツに言いたい事はあるか?」
「…」
「どうなんだ?」
「…ないです」
下を向きながら井浦が小声で告げる。
「とにかく何かあったら連絡してきなさい。さぁ、帰った、帰った」
渋々、ソファを立つ井浦兄弟。
玄関まで見送る父。
井浦兄弟が車に乗り込むのを確認し、返す刀で父がTOKIに詰め寄ってきた。
「なぁ、お前、アイツは何をしたんだ?」
「別に…」
「そうか、それにしても殴り過ぎだろ?特に顔面が酷い事になってる。もし眼球に何かあったらどうするんだ?失明でもしたり、脳に障害が残ったら、お前が一生かかっても償いきれないぞ?」
そんな事は考えてもいなかった。
失明?脳障害?想像もつかないが、そんなことになったら確かに一大事だ。
とてつもない賠償金を請求されるかもしれない。
TOKIは自分のした事の恐ろしさに今頃になって恐怖を覚えた。
「まぁ、いい。自分の事は自分で解決しろ。いいな?」
部屋を出る父。
意外だった。
母を困らせる父。
あまり好きではなかった父だった筈なのに妙に親近感を覚えたTOKIだった。
それと同時に自分のした事の恐ろしさを反芻しているTOKIが、そこにいた。
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