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第28回
「ごめん、今日はちょっとマズいんだ。」
最近、静香の様子がおかしい。
なかなか連絡が取れないようになり、取れたとしても決まって「時間が取れない」
…避けられているような気がする。
下校時もTOKIを避けるように帰宅してしまい、訳を問いただそうにも、その機会に恵まれない日々が続いた、そんなある日。
(よし、今日こそは絶対に話してみよう)
そう意気込んで学校に向かった。
授業前に廊下を歩く静香を見つけ、走り寄って呼び止める。
「今日は絶対に話がしたいんだけど」
それに対して無言の静香。
「何?どうしちゃったんだよ!最近、おかしいぞ!」
「…わかった、放課後に私のマンションの前で待ってて」
「わかった」
ぎこちない表情。
只ならぬ空気。
(まさか…別れるなんて話じゃないだろうな)
静香の恋愛遍歴の事に関しては、もう乗り越えられているという自負があった。
(静香は悪くない、寂しかっただけなんだ。そんなどうしようもない事でウダウダ悩んでる事が二人にとって何のプラスになるんだ?)
そう何度も何度も自分に言い聞かせる事によって、完全に克服できた。
(もう今の自分には静香を困らせる要因は無い筈だ)
という思いが、より一層TOKIを迷わせる。
(静香のあの表情、あの困ったような顔はなんなんだ?)
授業なんて上の空で、ただただ時間が流れるのを待った。
終業後、一目散にTOKIは静香のマンション前に向かった。
待つ事20分。
静香の姿が街路灯に照らし出される。
こちらに向って歩いてくる静香。
良く見ると静香の2メートルくらい後ろに一人の人影。
人影は立ち止まり、静香はそのまま歩を進めてTOKIの目の前で立ち止まった。
「あれ誰?友達?」
「うん、いいの」
「いいのって…」
「ねぇ、聞いて、私と別れて欲しいの」
鈍器で殴られたように目の前が真っ暗になった。
束の間の沈黙の後、静香が続け様に口を開く。
「私ね、アナタが私の事で悩んでいるのが分かって、その事を相談してた人がいるの…その人と、もう寝たの。ゴメンね」
…言葉にならない。
何も考えられない。
呆然とした。
それはどれほどの時間かわからない。
数秒か数分か。
その後、ふとTOKIは口を開いた。
「そいつが、その後ろの方にいる奴か?」
「…そうよ」
天を突くほどの怒りが瞬時に沸き出た。
暗闇に身を隠しているヤツに歩み寄ろとするTOKI。
「やめて!彼は悪くないの!私の事をまだ好きなら、彼に手を出さないで!」
叫びながら毅然とTOKIの前を塞ぐ静香。
(私の事を好きなら手を出さないで)
という言葉がTOKIの歩みを止めた。
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