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第35回
「深谷」「原宿」「汲沢」そんな地名が目に付く。
1時間ほど歩いている中で擦れ違った人は僅か三人。
その三人に道を聞こうと声を掛けるも血塗れのTOKIを不気味がって誰もが足早にTOKIから走り去っていった。
地図を見て記憶した方向に、ただただ歩を進めるしかなかった。
歩けば歩くほど視界が霞み、時折、気を失いそうになる。
舌を思いっきり噛んだ。
その痛みで意識を覚醒させながら、ただひたすらに歩いた。
次第に空が明るくなってきた。
気が付けば現時刻は6時を回っている。
人に出くわす機会が多くなった。TOKIはTOKIを訝しく見る老婆に声を掛けた。
「あの〜すいません。立場という所には、どうやって行けば良いのでしょうか?」
「アンタ、一体どうしたの?血が出てるじゃないの!」
「ちょっと前に交通事故を起こしてしまって…今、一緒に乗っていた友達の所の病院に行きたいのですが」
「立場なら、そこの坂を登った所の交差点に交番があるから、そこを右に曲がって真っ直ぐ行けば着くわよ」
「ありがとうございます」
「大丈夫かい?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
1回曲がるだけで着く。
これでもう道に迷う事は無い。
同時に意を決した。
三人が搬送された病院に辿り着かない事が、ホンの少しだけTOKIの心を安堵させていたのだ。
(もし誰かが死んでいたら…)恐かった。
途方もなく恐かった。
しかし、場所が分かった以上、行かない訳にはいかない。
行かない理由が無い。
行かない事が許される訳が無い。
三人の内の一人でも命を失っていたら、もしくは失明等の取り返しのつかない状況になっていたら、自分はこの世を去って責任を取る、という事を胸に秘めて、TOKIは歩き出した。
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