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第38回
三人が無事退院し、TOKI自身も元通りの生活に戻った。
深夜の仕事を辞め、実家から近いガソリンスタンドで働く事にした。
気さくで飾らない仕事。
洒落たスーツを着て、六本木とかのバーで深夜までカクテルを傾ける、なんていうスタイルより、TOKIは飾らない下町の風情が一番自分の肌に合うことを実感した。
近所の人との何気ない交流、そして元来メカ好きなTOKIには、この仕事が天職のように思えた。
そんなガソリンスタンドの斜め前に、持ち帰り専門の寿司屋があった。
ガソリンスタンドで立ち回る自分に、何故か視線を感じる。
視線の発信元は寿司屋でアルバイトをしている女の子。
(なんか、いつも見られてるような気がするな)
TOKIは、どこか気恥ずかしい思いを抱きながら仕事に明け暮れていた。
ある日、スタンドの客でもある寿司屋の店主に話し掛けられた。
「おい、お前って彼女いるのか?」
「え?突然何ですか?」
「いいから、彼女はいるのかって聞いてんの」
「いや、いませんけど」
「ふ〜ん、そうか」
「何ですか一体?」
「いや、ウチで働いてる娘がいるだろ?あの娘が、お前の事を好きなんだってさ」
「え?だって顔もロクに見た事無いし、喋った事も無いんですよ?」
「カッコいいんだってさ」
「はぁ…」
自分も一応、夜の世界に一度身を窶した人間だ。
そんな事で、どうなる事も無いが、正直、照れくさかった。
彼女の年齢はTOKIの3つ下。
あと数ヶ月で16歳になるらしい。
つまり、まだ15歳。
高校には行かず、中卒で寿司屋で働いているらしい。
(15歳のガキに惚れられてもな…)
TOKIはまともに受け止めてはいなかった。
そんなTOKIは、学校での友達、前の仕事関係の友人から、引っ切り無しに女の子を紹介されていた。
一人だけ自分から何となく告白した事はあるが、その子には玉砕され、それ以外の子は全てTOKIと付き合いたい旨の意思を友人から間接的に聞いていたが、その全てを断っていた。
(次に付き合う子は結婚する子)
そう決めていたTOKIは中途半端な事はしたくなかった。
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