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第45回

東京都中央区。

永代通りと新大橋通りの交差点。

TOKIはバイクで直進しようとしていた。

進行方向の信号は、もちろん青。

右斜め向かいの対向車線には右折待ちの軽自動車のバンが交差点にある程度進入した形で止まっている。

交差点に差し掛かろうとした瞬間!

対向車線を走る自分をやり過ごしてから右折する筈の軽のバンがTOKIの眼前で突然、交差点に深く進入してきた!

(!ッ)…激突。

しかし、日頃からバイクで走り込んでいるTOKIのキャリアは最早素人離れしたスキルに達していて、こういったアクシデントにも瞬間的に冷静に対応出来るようになっていた。

瞬時に頭を抱え、慣性の法則に身を委ねるTOKI。

丸めた背中から地面に落下。

(ふぅ…イテテ。チッ、まったく…)

と立ち上がろうとした瞬間、右下腹部に背面から激痛が襲った。

いや激痛どころではない。

今まで体験した事の無い痛み。

我慢どころか、通常の意識を保つ事さえ困難な痛みがTOKIを襲った。

(…これは、普通じゃない)
(これが死に至る痛みなのか?)

そう、この時TOKIが耐えていた痛みは通常7割はショック死してもおかしくない程の痛みだった。

のた打ち回るTOKI。

ふと信号を無視してきた相手の軽バンの運転席に目をやる。

朦朧とする視界の中でTOKIが捉えた相手は、ハンドルにもたれてうずくまっている。

(俺は…このまま、死ぬのか?)

意識を何とか保っているTOKI。

見知らぬ男がTOKIを抱き起こす。

「おいっ!おいっ!大丈夫か!」
「…せ、背中が、ここが、痛い、物凄く、痛い」
「しっかりしろ!救急車がもうすぐ来るからな!」

男の声がどんどん遠くなる。

いや、痛みもだんだん和らいできた。

それは身体が生きる事を諦めた事を知らせるサイン。

TOKIはそれを受け入れ始めていた。

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