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第46回
(俺のバイクは、まぁ、弟が乗るだろう。服は、これも弟が着るかな?えっと、あと何か無かったけな?あ、預金はそんなに無いからイイとして…、静江ちゃんには、まぁ、新しい彼氏が出来るだろうし、母さんや親父に最後に会いたかったけど、会ったところで特に話す事も無いしな…)
自分がこの世からいなくなる事を冷静に整理していた。
もう痛みは感じなくなっていた。
夏の日差しで焼けたアスファルトの上で、薄れゆく意識の中
「目を開けろ!目を開けるんだ!」
救護の為に来てくれたのだろうか?
自分を抱きかかえてくれている男が何回も何回もTOKIの顔に張り手を飛ばす。
(もういいのに、顔叩かないでよ。えっと、念には念を入れて、本当にいなくなっても大丈夫だよな?…うん、大丈夫だろう!つーか、もう面倒くさいな。あっ…と、俺がいなくなっても、俺が生きていた証みたいなものはあったっけな?)
思考を巡らす。
人生最後になるであろう思考を巡らす。
思い当たらない。
見つからない。
途端に少しのアセリが心をよぎった。
(あれ?おいおい、何にも無いのか?俺が生きていた証は?証になるモノって何だ?あれ?あれ?おいおい、コレじゃ、さすがに死ねないぞ!)
そう意識した瞬間、超高速で意識に光を感じた、と同時に再び激痛が走った。
抱きかかえる男に
「俺は、まだ、死ねない!」
と訴えた。
「あぁ!あぁ!まだ死んじゃダメだ!しっかりしろ!」
程なく救急車が到着。
すぐさま病院に搬送される。
車内でTOKIは
「トイレに、行かせて下さい…」
「ダメだ!、死ぬぞ!」
「もう漏れそうです」
「!っ」
無線で救急隊員が
「内臓の他に膀胱にも損傷の疑いがあります!」
そう告げるのが聞こえた。
この時のTOKIの状態は多臓器破裂。
生きているのが不思議な状態。
この段階で意識がある事自体、奇跡だった。
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