prev
next
第48回
首から下の感覚が無い。
俺の身体はどうなっているんだろうか?
確認しようにも全身が動かない。
目だけで四方を確認する。
冷徹な規則音が鳴り響く医療機器、無数のビニール管の上には数え切れない程の点滴薬剤、他にも何人かこの部屋にいるようだ。
ここはICU、集中治療室。
「大変な手術だったのよ。よく頑張ったわね」
「あぁ、信号を無視して、いきなり車が出てきてね…」
「知ってる。大変だったわね。」
「相手のヤツは?」
「あの人ね、ちょっと常識が無い人っぽいの」
「そう…」
「今はとりあえず休みなさい」
「あぁ…」
TOKIは脳内で事故の時の事を反芻している内に再び眠りについた。
…翌日。
鼻腔の管が抜かれ、無理なく会話が出来るようになった。
と同時に自分の身体がタダ事ではない事を確認した。
(もう普通の人生は無いな)
しょうがない、これも運命なのだろう。
まだ包帯で雁字搦めにされて、全身に布団が掛かっていた為、身体の状態を細かには良かれ悪かれ把握していなかったTOKIは、まだこの時は幾許かの余裕があった。
(普通の人生ではない)
それだけはわかった。
それだけ分かっていれば、すぐにやらなければならない事が一つだけある。
静江との別れ。
あんな良い子を、こんな男の人生に巻き込む訳にはいかない。
あの子なら、まだまだやり直せる。
何としても自分と別れさせなければいけない。
静江は優しい。
その優しさを踏まえた上で、何としても別れなければ。
(鬼になろう)
多分、近い内に静江は、このICUに現れるだろう。
別れは早い方がいい。
ほどなくして母が見舞いに来た。
「ねぇ、母さん、静江ちゃんは?」
「…」
「どうしたの?」
「あの子ね、事故からアナタが目覚めるまで、毎日神社でお百度参りをしてたみたいなの。裸足になって、ずっとね」
込み上げるモノがあった。
胸が張り裂けそうだった。
「明日、来るって言ってたわ」
「わかった…」
自分が逆の立場だったら、彼女がどんな障害を背負おうとも支えになるだろう。
どんな事も笑い飛ばすだろう。
だが、彼女はまだ17歳。
いくらなんでも若すぎる。
…情を完全に捨て去らなければいけない。
TOKIは彼女の未来の為に、鬼になろうと決めた。
prev
next