prev
next
第49回

窓に目をやる。

(俺が一体何をしたっていうんだ)
(こんな事はTVの中だけだと思っていた)
(何でこんな事になったんだ)
(俺は、これから一体どうなるんだろう)

取り留めの無い問いが明滅する。

薄暗い空に向かって、ずっとずっと問いかけていた。

昨日の決心に微塵の揺らぎも迷いも無い。

静江が入室してきた。

TOKIを取り巻く機械や無数の管や薬剤に圧倒される静江。

涙を零す静江。

TOKIはその涙の持つ優しさに誓って、彼女の幸せの為の別れを告げようとしていた。

静江が「大丈夫?」というTOKIへの問いを掻き消すように

「なぁ、もう、とにかくさ、こんな状態だ。これから治療に専念しなきゃならない。もうアカの他人に構ってる余裕なんて無いんだ。今後の事をとにかく集中して考えていきたいからさ、別れてほしいんだよね」

絶句する静江。

「あのさ、勘違いして欲しくないんだけど、お前の考えてるような気遣いなんてしてないぜ?マジで。もうさ、ホント余裕が無いんだよ」
「絶対に離れないからね!」

とTOKIの声を遮るように涙声で毅然と訴える静江。

「あ?調子に乗んなよ?お前、ひょっとして彼女とかのつもりだったの?勘弁してくれよ。ブスのくせに彼女気取りか?笑わせんなよ!」

言葉を失う静江。

「とにかく今日限り、病院には来るなよ。もう、貧乏くさい顔を見てたら治るモンも治らねーからさ。いいな、今日でお前とはさよならだ。これ以上、何も言う気はない。さっさと出てってくれ。二度と来るなよ!」

TOKIからの罵声を浴びたショックなのか、ヨロヨロと手荷物をまとめてICUを出て行こうとする静江。

立ち上がれるのなら抱き締めたかった。

起き上がれるなら、こんな男と付き合わせてしまった事を謝りたかった。

俯いたまま静江は静かにICUを出て行った。

彼女の足音が遠ざかるのを確認してから、必死に堪えていた涙を零す事を自分に許した。

prev
next