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第50回
手術後一週間。
大部屋に移動。
TOKIは日頃から鍛えていた事が幸いしてか、驚異的な回復を見せていた。
それに比例して外されていく機械。
減っていく薬剤。
ビニールの管もどんどん抜かれていく。
両手両足は感覚が戻っている。
ただ、胴体だけはコンクリートで固められたように感覚が無かった。
「ねぇ、看護婦さん(注:この当時はまだ看護師と呼称される事は無かった)俺の身体って結構ヒドい事になってる?」
「そりゃ大手術だったからね。でも男の子なんだから」
「はぁ…」
多臓器破裂。
自分がどういう状態だったのかは、それとなく聞いた。
破裂して摘出した自分の内臓の写真も見せてもらった。
けれど、全く現実感が伴っていなかった。
日が経つほどに、あらゆる感覚が戻ってくる。
そんな思いを抱えながら過ごして一週間ほど経った、とある日の午後。
とうとう自分の胴体の状態を見れる機会が訪れた。
息を呑むTOKI。
外されていく包帯。
自分の胴体部が露になっていく。
乾いた血痕にヘバりつく無数の脱脂綿とガーゼ。
縦横無尽に縫われた手術痕。
胴体の3分の2は縫われているようだ。
縫われた事によって歪む皮膚。
体内から突き出る太いビニールの管。
…愕然とした。
ただただ愕然とした。
まさか、これほどとは…。
「今はまだ手術間もないから、こんなだけど、次第に綺麗になってくから」
気休めにしか聞こえない。
(こんな醜いモノが綺麗になんかなるものか!)
心の中で、そう吐き捨て、TOKIは脱力し、病室の天井を見上げた。
(もう海に行く事はないだろう。サウナも無理だな)
そんな事を考えながら静江に別れを告げた事は間違いなく正解だったと確信した。
しかし、TOKIは知らなかった。
こんな事は、これから始まる本当の地獄へのほんの序章に過ぎなかった事を。
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