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第53回
治療にあたってTOKIは医師の指示を完璧にこなす。
絶対安静。
同フロアにあるトイレに自足する事だけが許され、売店等の院内を歩く事さえ禁止された。
ただただベッドに微動だにしない置物のように横たわる毎日。
(安静にすれば良くなるかもしれないなら…)
TOKIは鉄の意思を以って「身体を動かしたい」という衝動を禁じた。
食べろと言われたものは全て口にした。
飲めと言われた薬は全て無条件で飲んだ。
痛みを伴う辛い治療も歯を食い縛って耐えた。
夏に入院してから早数ヶ月。
季節はすっかり冬の様相を呈していた。
「ねぇ、先生、俺はどうなっちゃうのかな?」
「あ?あぁ…何とか良くなれば良いんだけどな」
「良くならないのは、もう分かってるから気休めはイイです。俺が聞きたいのは、俺はこのままダメになっちゃうまで、どれくらいの時間があるのか?っていう事なんです」
「うん、そうだな、まぁ、人間の身体なんてワカランもんだ。何とかなるさ」
「いや、そういうのはイイんです」
「…いやな、一つだけ方法があるにはあるんだが…」
「!?それは何ですか?!」
「う〜ん、まだ治験段階なんだけどな、お前に対応する薬があるにはあるんだ」
「それはどういう…」
「ウチの病院じゃ、まだ使えないんだよ。研究施設がある大きい病院に転院して、やるとしたらそこで使う事になる」
「ここじゃダメなんですか?」
「あぁ、とにかく副作用の問題があってな。髪の毛が抜け落ちたり、凄い高熱が出たり、肌が荒れたりとかの例もあって、まだまだ本格的な許可は下りそうにない。そういった副作用が出た時にウチの病院じゃ対応出来ないんだ」
「そうなんですか…」
「しかも臓器欠損のある患者に、その薬を投与したという前例がまだ無いから、やるとしたら何通もの同意書を書かなきゃならん」
「と言う事は?」
「投与した瞬間に万が一の事態が起こっても、一切文句は言えないってこった」
「でも、もうそれしか無いんでしょ?だから俺に言ったんでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「出来れば先生に治して貰いたかったな」
「なにを女みたいな事言ってんだ!男のお前に言われても嬉しくも何ともねーや!」
談笑する病室。
笑顔をよそに自分の命を諦めかけていたTOKIの心に再びユラユラと炎が見え隠れし始めた。
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