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第56回
神谷は「久しぶり…」と声を掛けて病室に入るや否や、すっかり変貌したTOKIの顔を見て絶句した。
荒んだ目つき。
狂気を孕んだTOKIのオーラに言葉を失った。
「どう、調子は?」
「保険会社が、結論を延ばしに延ばして、まだ治療のメドが立たないんです」
「え?まだ、そんな事になってたの?」
「えぇ…」
「よっしゃ、わかった!ウチは知っての通り大所帯なんだよ。被害者の方に、そんな対応をしてるのなら、ウチの社用車の保険を全部他社に変えるぞ!って脅してみるわ!」
「本当ですか?」
「あぁ、任せといてや!今すぐ電話かけてくるわ!」
病室を飛び出す神谷。
嬉しさのあまり、神谷の後を追うTOKI。
「あ、もしもし、お前のトコの対応はどないなっとんのや!毎年毎年バカ高い保険料払っとるのは、何の為や!ちゃんとせんと、本社に報告するで!ウチの何百台もの車の保険を他に取られたくなかったら、すぐに良い結果出さんかい!」
TOKIを見て、ウインクをする神谷。
「おぅ、おぅ、わかりゃエエんや。今後、また同じような対応するんやったら、即時変えさせてもらうからな!」
電話を切る神谷。
「どうや?」
笑顔でTOKIに問いかける。
「ありがとうございます!」
「また変な対応してたら、すぐに言って下さい」
「本当に、ありがとうございます!」
「まぁ、まぁ、病室に戻りましょう」
病室に戻り、ベッドに横たわるTOKI。
心が凄く晴れやかだった。
こんな感覚は久しぶりだった。
「しかし、神谷さんって、興奮すると大阪弁になるんですね」
「え?あぁ、生まれは大阪なんですよ」
「生の大阪弁って初めて聞きましたよ」
久しぶりに病室に笑い声が木霊した。
しばしの会話を楽しんだ後、
「いや〜、元気を取り戻してくれたみたいで良かった!そろそろ会社に戻らなきゃならないんだけど…今日は折り入って話があるんです」
「どうしたんですか?急に改まって」
「結城の事なんです」
「彼の話はしたくありません」
「いや、気持ちは分かります。しかし、私はヤツの直接の上司です。そこを何とか聞いてもらいたいんです」
「まぁ、神谷さんが言うなら…」
神谷の口から出た言葉にTOKIは耳を疑った。
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