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第6回

母の日、母親の誕生日には駄賃等で貯めたお金で必ず何かをプレゼントした。

常に母親の普段の言動に気を配り、母が気にしている物を、さり気なくリサーチしていた。

観葉植物、香水、化粧品、TOKIは自分の物の何かを買うより、母に何かをプレゼントした時の母の顔を見る方が何百倍も嬉しかった。

母が外食に連れて行ってくれる時には、その店で一番安い物をオーダーし、母親に負担がかからないようにもしていた。

「いつか母さんを僕が食事に連れて行きたい」

小学校高学年まで、ずっと温めていた計画。

TOKIは一日も早く実行に移したかった。

食べたいお菓子も我慢して、欲しかったプラモデルも我慢して、数ヶ月に渡って、ひたすらお金を貯めた。

そして実行できるくらいのお金が貯まった時、母に万感の思いを込めて歩み寄って話しかけた。

「ねぇ、お腹空かない?」
「何?どうしたの?」
「いいから!お腹空いてない?」
「う〜ん。そうねぇ、ちょっと空いたかも」
「じゃあさ!ちょっと僕について来て!」
「何?どこに行くの?」
「いいから、いいから!ホラ、早く!」

唐突な申し出に訝しむ母親を外に連れ出して、地元の商店街に向かった。

「なに?なに?ちょっと、一体どこに行くの?」
「いいから!いいから!」

歩みの遅い母の手を無理矢理引き、母に何回か連れられて来た事のあるレストランに母の背中を押し込んだ。

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