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第60回
(コンコン)
ドアをノックする音。
「どうぞ」
「あ、お邪魔します」
結城がやってきた。
「まぁ、掛けて下さい」
ウヤウヤしく椅子に座る結城。
無言。
TOKIも無言。
先に沈黙に耐えられなくなったのはTOKI。
「貴方は、一言も謝りませんね。それはどうしてですか?いや、会社でのお立場を大事にされているのは分かります。一方的に過失がある、なんて言ったら、それこそ貴方が望まないところまで行ってしまう危険がありますからね。でもね、ご存知の通り、私はこんな身体です。この怒りをどうすれば鎮められると思いますか?」
無言のままの結城。
「貴方のお子さんの事を神谷さんから聞きました。しかし、もし、そのお子さんが誰かの不注意による事故で、私の身体ようになってしまったら、貴方は相手に、どういう感情を持つと思いますか?」
「…許せないと思います。想像出来ないほどの怒りが湧き起こると思います」
「ですよね?でも、まぁ、それはイイとして、お子さんの写真ってあるんですか?」
「あ、ハイ…」
背広のポケットから写真を取り出してTOKIに手渡す結城。
写真には家族4人が笑顔で佇む姿が写っていた。
写真の向かって左手前に小学1年生くらいと思しき娘さんの姿。
娘さんの視線は健常な人のモノとは違う事は、TOKIにもすぐに分かった。
「娘さんは、生まれながらにして目が不自由なんですか?」
「…はい」
「貴方は娘さんに何を望んでいますか?」
「娘は、障害がある分、その分、幸せになって欲しいと思っています」
「お辛いでしょうね」
「いや、家族で支えて何とかやっています」
一度、口に出せば、もう戻れない。
TOKIは目を瞑って、自分が昨夜出した結論に悔いが残らないか再確認した。
そして意を決した。
「結城さん…」
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