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第66回

道行く全ての人が路上に倒れるTOKIを横目で見る。

誰も手を差し伸べてこないし、声も掛けてこない。

虚ろな意識の中でTOKIはそんな様を、これからの自分の人生に照らし合わせていた。

「自分の力で、そんな逆境にも耐えていかなきゃならない。誰かに助けを期待する心は、金輪際捨てよう。」

立ち上がり、街路樹にもたれかかり、意識が清明とするまで休息を取る。

「さ、もう少しだ」

TOKIの自宅に近い駅まで、あと電車で二十分程度。

そして駅を下りて徒歩で10分程度。

たったそれだけの行程に対して、5回も路上で休憩しながら、何とか自宅に着いた。

着くなり、母親が「どれだけ心配したか分かってるの!大丈夫なの!?」と大声を張り上げる。

「あぁ、大丈夫」
「とにかくすぐに横になりなさい!無茶な事はしないで!」
「あぁ、ゴメンゴメン」

TOKIは久しぶりの自分の部屋のベッドに横になった。

懐かしい風景。

何とも言えない安堵感。

ただ住み慣れていた筈の自分の部屋にいるだけ。

何でも無い事なのに、とても嬉しかった。

「バイトが終わったら静江ちゃんも来るってさ。アンタ、静江ちゃんの事、どうするの?」
「別れた方がと本人には言ったけど、あの子、病院に来ちゃうんだよ」
「アンタはどうしたいの?」
「まだ、何とも言えない。けど、もし身体が良くなるようだったら、あの子には散々世話になったから恩返しをしたいとは思うよ」
「…わかったわ。とにかく今は身体を良くする事だけに専念しなさい」
「あぁ、わかった」
「あと、例の薬を打ってくれる病院の事なんだけど…」
「あぁ、どうだった?」
「近所の大きな病院は全部あたったんだけど、全部断られちゃってるの」
「…そうなんだ」
「小さい所は、まだ聞いてないから、明日にでもあたってくるからね」
「うん」

近所の都立病院や大学病院までもが投与するのを敬遠するような薬。

そんな薬でも、今の自分の命を繋ぎ止めている大事な薬だ。

TOKIは治療に障害が出ないよう、早く通院を受け容れてくれる病院が見つかる事を祈った。

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