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第69回

薬の投与に間が空く週末をバンドの練習に充てた。

IZAが「そろそろ、俺の溜めてた曲とか演ってみたいんで、歌詞を乗せて欲しいんだけど、TOKIちゃん、歌詞は書ける?」
「うん、頑張るよ。あと、俺も自分で作った曲とかあるんで、それも聴いてみてよ」
「OK!」

Kill=slaydというバンド名を決めて、個々にステージネームをTOKI、TERUHIKO、IZAYOIとした。

IZAには、まだ言っていない事があった。

いや、言えないという方が正確だろう。

「自分の身体の事」

自分のバンドのヴォーカルが内臓を欠損していて、体力的にハンデがある事。

そして、まだ合併症の治療中で下手をすれば入院の可能性もある事。

(いつかは言わなきゃな。しかもなるべく早く)

そんな思いを抱えながら治療とバンドの練習を繰り返す毎日だったが、最も恐れていた事が起こる。

通院先の病院で「内臓欠損の患者に新薬を投与した事に対する治療経過のデータを取りたいという連絡があったので、前の病院に短期入院をして欲しい」との通達があった。

断れる筈も無く、TOKIは意を決してIZAに電話で告白した。

「ごめん。実は隠してた事があるんだ」
「何?」
「実は俺、内臓をいくつか摘出してて、体力には限界があるんだ」
「え!?そうなの?」
「うん、しかも、その時の合併症の治療で今も通院してたりするんだよ」
「全然、気が付かなかったよ…」
「いや、今のところ正直、自分には何ら制限は感じないんだけどさ。近々ちょっと検査入院をしなくちゃいけなくてね。そしたらIZAにも迷惑が掛かっちゃうかな、と思って…。いや、言わなきゃいけない、とは思ってたんだけど、なかなか言えなくてさ」
「いや、まだまだオリジナル曲だけでライヴをやるには時間が掛かるだろうし、そんなに気にしなくていいよ」
「入院中のベッドでも作詞は出来るからさ、とにかく、なるべく足を引っ張らないように頑張るからさ…ごめんね。言い出せなくって」
「別に、気にしなくていいよ。むしろ平気なの?バンドなんかやって?」
「うん、こんな身体だけど、こんな身体だからこそ、自分の存在を証明できる事に使ってみたいんだ」
「わかった。俺も出来る限りの事をするから、治療の方、頑張ってね」
「うん、なるべく早く退院するから」

…心が少し軽くなった。

と、同時に迷惑を掛ける分、頑張らなきゃなという思いがTOKIをより一層奮起させた。

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