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第81回
TOKIは部屋に篭って、静江との事を考えた。
(俺が手術後、意識の無い時に、神社で裸足になってお百度参りをしてくれたんだよな)
(俺が、こんな雑巾みたいな身体になった時に、あの子は何事も無く、いつも通りに接してくれたな)
(俺が、病院で「明日発売」という車の雑誌の広告を見ていた時に「あ、この本読みたいな」って言った時、あの子はその日の深夜にコンビニに並ぶ、その本を買って、朝一番で届けてくれたっけな)
(薬の副作用で歩けなかった時に肩を貸してくれたな)
etc.etc.
気が付けば今の自分の「生きる原動力」となっているのは「誰かに必要とされる事」になっていた。
Kill=slaydの活動を楽しみにしてくれている大勢のオーディエンスと、バンドメンバー、スタッフ。
数年前には病室で一人っきりだった自分が、いつの間にか、こんなに沢山の人に必要とされる存在になっている。
だが、そうなるまでになれたのは間違いなく静江のおかげだ。
そして自分は彼女を幸せにしなければいけない存在という覚悟も強くあった。
TOKIは自分の中にある覚悟を再確認して、静江と再度話し合いたいと何回も連絡するが、静江は完全にTOKIを避けていた。
そんな事を繰り返していく中で(これ以上、追いかければ静江はより拒んでしまう)と考えたTOKIは(彼女から自主的に連絡が来るまで待つ)というスタンスに切り替えた。
そして数ヵ月後。
静江から電話が鳴った。
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