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第85回

事務所のプロデューサーから、一本の電話が鳴った。

「TOKIか?ちょっと事務所まで来れるか?」
「あ、ハイ」
「でさ、一人で来て欲しいんだよ」
「あ、ハイ」
「他のメンバーには内緒でな」
「え?何でですか?」
「それは会った時に話すよ」
「わかりました」

(なんだろう?)という思いを抱きながらTOKIは神宮前にあった事務所まで車を飛ばした。
「お!来たな。じゃ、ちょっと近くの喫茶店にでも行こう」と、到着したと同時にプロデューサーに誘われるまま近くの喫茶店に入った。

「で、どうしたんです?」

TOKIは席に座ると同時に、車での道中で引っ掛かっていた疑問の答えを求めた。
「うん、デビューの内諾を得てるレコード会社との折衝の中で、凄く良い条件を提示してきたトコがあってな」
「え?マジっすか?」
「あぁ、社長とも話したんだが、ウチの会社としても、その契約で話を進めたいと思っているんだ」
「はい」
「ただな、それには条件があるんだ」
「どんな?」
「お前一人だけって事なんだ」
「え?」
「Kill=slaydは解散して、お前のソロという形でなら良い待遇で契約したい、と言ってきてるんだよ」
TOKIは言葉を失った。
そんなTOKIに矢継ぎ早にプロデューサーは続けた。

「いいか?俺は音楽はビジネスだと思っている。それは時にこういう一見残酷な事も往々にしてあるんだ。でもな、そういう事を背負っていってこそ、音楽を仕事に出来るんだ」
「それは、出来ません」
TOKIはようやく思考がまとまり言葉を発した。
「わかる!お前の気持ちはよく分かる。だけどな、今のIZAが他の華のあるギタリストに勝てるか?JUNNAやKAZUSHIだってそうだ。フィロソフィアとKrankのPVをレコード会社のお偉いさんが見て、ボーカルの方だけなら、と言われた時に俺は否定できなかった。俺も他のメンバーは好きだ。だけどな?仕事となれば話は違う。それは分かってくれるな?」

「…」
再び言葉を失ったTOKI。
「混乱するのはよく分かる。今、答えを出せとは言わない。少し考えてみてくれ」
伝票を取り、TOKIを出口へと促すプロデューサーに誘われるまま、TOKIは路上でプロデューサーと別れた。

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