prev
next
第86回

「ねぇ?もっとさ、練習しない?」
「ねぇ?もっとさ、俺達の存在を高める為に案を出し合わない?」

等々。

TOKIはメンバーに訴えた。

もちろん、ソロデビューの話しは伏せての事。

勘ぐられない程度に、合う度合う度TOKIはメンバーにさりげなく訴え続けた。
しかしメンバーからの反応は「何で?」「それなりに忙しいんだよ」等、前向きな意識は得られなかった。

リハーサル代も、衣装も交通費も事務所負担。

それなりに給料も出ていて、メンバーは満足しているようだった。

どころか「ねぇ、レコード会社って、いつ決まるの?」のような自分の人生なのに、どこか他人任せにしているような態度。

メンバーを傷つけまい、としていた優しさは実はマガイもので、このままでは結果的に不幸な結果に陥ってしまう。

本物の優しさとは厳しさを伴うものなのかもしれない。

TOKIはとうとう告白した。

「レコード会社が決まらない理由を教えようか?事務所が俺のソロでやりたいって言ってるからなんだよ!
それを俺が止めているからなんだよ!レコード会社の契約金とか条件とかで一番イイのが俺のソロデビューなんだとさ。お前らは金にならないって言われてるも同然なんだよ!悔しくないのか!」

ぬるま湯にどっぷり浸かってた時に現実という名の冷水を浴びせるようなTOKIの怒号にメンバーは沈黙した。

TOKIは続けた。

「俺はソロなんかでデビューするつもりは無い。お前らと一緒じゃなきゃ意味なんて無い。ただ、そういう現実である事だけは認識してくれ」

このTOKIの言葉にメンバーは覚醒した。

「わかった。最近TOKIちゃんが、そういう事を良く言ってたのは、そういう事だったんだね
「うん」
「今からどこまでできるか分からないけど、精一杯やってみるよ」
「ありがとう」

以降、メンバーでのミーティングも熱を帯び、どんなにキツくても練習はやるようになった。

しかし、それは一朝一夕でどうにかなるものではなく「バンドでなければデビューはしない」というTOKIの姿勢と事務所との対立の溝が深まる事となっていく。

prev
next