「条件の悪い契約じゃダメなんですか?契約は契約じゃないですか!」
「お前は何にも分かってない」プロデューサーとの対立は深刻なものになるばかりだった。
あくまでバンドに拘るTOKIと、音楽はビジネスと捉えている事務所。
TOKI一人になればメンバーに掛かる費用も4分の1。しかも契約内容も良い。
事務所の言い分も当然だった。「情」、TOKIは、それが捨てられなかった。
メンバーを捨て自分だけ生き残る。そして、のうのうとデビューする。
そんな自分には耐えられなかった。メンバーも頑張ってきてる。しかし、
現時点で事務所が求めるだけの「華」ともいうべき存在感を努力で出すという事は難しい。
音楽的な技量は、メンバー共にほぼ横一線。
しかし、TOKIだけがミュージシャンという枠を超えた「何か」を持ち合わせていたのだろう。
結果、事務所との溝は埋まる事は無く交渉は決裂。事務所の移籍が決まった。
TOKIはこの頃、音楽を始めるにあたって「自分の可能性の追求」「自分の居場所を創る」という当初の目的は、いつの間にか、ある程度果たしている事を自覚していた。
念頭に行動してしまっている自分に気付く。「上り続けていなければいけない」といったような概念に、いつのまにか縛られ、本当に大事な事を見失ってしまっているような気がしてならなかった。
「俺は、一体どうなりたいんだろう?」
考えても考えても何も見つからなかった。どこまでが欲しくて、どこまでを叶えたいのか?
それが全く見えなかった。
混迷する意志のまま、事務所を移籍した直後、メジャーデビューが決まった。
レコード会社のスタッフに囲まれ、まるでサラリーマンのような日々。
売れなければ自分の意志も意見も何も反映はされない。
しかし、売れたいという意識は、この頃には既に希薄だった。
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